M-1、R-1の二冠制覇!若手のホープ粗品の魅力に迫る
笑いの神様に愛されたプリンス
2019年3月10日に開催された、ひとり芸日本一を決める大会『R-1ぐらんぷり2019』は、霜降り明星の粗品が見事、優勝を果たした。
つい3か月前に『M-1グランプリ2018』で優勝したばかりで、史上初となるM-1とR-1の二冠を達成し、まさに霜降り明星の時代到来を感じさせた。
その勝利は粗品の実力であることはもちろんだが、彼の現在の勢いが運も味方につけたように感じた。
粗品はこの決勝大会で、ブロックトーナメントを勝ち抜いたときも、そして最終決戦でも、「点数は同点だがより多くの審査員が投票したので勝ち」という、ギリギリの勝ち方を二度もしている。まるで笑いの神様が味方しているかのようだった。
M-1、そしてR-1でも史上最年少での優勝。笑いの神様は今、この26歳のお笑い界のプリンスが可愛くて仕方がないのだろう。
もちろん一お笑いファンでしかないわたしも、このお笑いを愛しお笑いに全力を注ぐ、ストイックで、相方思いの若者を、リスペクトしてやまない。
勝ちたい
『R-1ぐらんぷり』の決勝大会に4年連続で出場中の実力者・おいでやす小田の紹介VTRで「粗品に優勝させてる場合じゃないんですよ! 絶対売れるでしょ、霜降り明星は。そんなもん、ほっといても」と、彼の持ち前のキレキャラで語った。
おいでやす小田にとって粗品は、優勝を阻むライバルの筆頭と感じていたのだろうし、もうM-1も優勝したのだからいいじゃないか、出てくんなよ! まだ売れてないおれらのチャンスを阻むなよ! と言いたかったのだろう。
そのおいでやす小田は、皮肉にも粗品と同じBブロックで戦い、得票数同点ながら、投票した審査員の人数の差で、ギリギリで粗品に敗れた。思わず小田が「なんでや!? こんなことある!?」と叫んだのは心の叫びだったのだろう。その運の無さは、正直、気の毒なほどだった。
粗品を育てた、思い入れの深い大会
しかし粗品も、高校生の頃から9年連続でこの『R-1ぐらんぷり』に出場し、「これで手ごたえを感じたから芸人になった」と語るほど、彼にとって思い入れの深い大会だ。
紹介VTRでは「ナメてはないです。ホントに真剣に向き合ってます。高校生の時から出てますから。何回も落ちてたり、悔しい思いもしたので。やっぱりR-1でした嫌な思いは、R-1でしか仕返しできないと思ってるんで。M-1は優勝しましたけど、R-1の恨みは晴らせてないので」と語った。
また、優勝後の記者会見でも、M-1優勝後からR-1のネタを仕上げた大変さについて訊かれて、こう語った。
「M-1獲った後の3カ月ぐらい、結構忙しくはさせていただいてるんですが、1時間半でも仕事と仕事の時間が空いてたら、大阪の小っちゃい劇場借りて、自主的にピンネタライブをやったりという努力はしてました。せいやもいっしょですけど、2人でいっしょに。大変さというか、楽しくネタを仕上げれたかな、と思います」
賞金とか、売れたいとか、女の子にモテたいとか、そんなことを目指してるんじゃないんだな、とわたしはあらためて思った。
彼はどうしても、このお笑いの戦いに勝ちたかったのだ。
「せいやに早く会いたい」
また、大会終了後に出演した、ケンコバMCのGYAO!の配信番組『ファイナリスト大反省会』での視聴者からの「優勝した後、せいやさんには会いましたか?」との質問に対する粗品の言葉も印象的だった。
粗品:あの、会ってはないんですけど、電話はくれました。結構熱くて、あいつ。興奮してたんですけど、「めちゃくちゃオモろかったわ」って言ってくれました。「M-1優勝したときより、今回のおまえの優勝のほうが嬉しいわ」って言うてくれて。
全員:ええーっ。
粗品:そんな相方おらんなあ、って思って。
ケンコバ:そんな相方おらんよ。
粗品:ええ、ホンマに。まだ会ってないんですけど、早く会いたいですね、せいやに。
ケンコバ:おまえら、ボーイズラブみたいやな(笑)
粗品:いや、狙ってはないですけど(笑)
ケンコバ:会いたいの? せいやに。
粗品:会いたいですねえ。
ケンコバ:それすごいねぇ。
粗品:喋りたいです、早く。
ケンコバ:ええーっ! おれ(元相方の)村越なんか一生会いたくないもん(笑)
そりゃこんなコンビ、お笑いの神様だって、愛さずにはいられない。
ピン芸人・冬の時代
それにしても、今大会で最終決戦に残った3人が、霜降り明星の粗品、セルライトスパの大須賀、だーりんずの松本と、すべてコンビ芸人だったのはなにかを暗示しているように思える。ピン芸人にとっては最高峰のお笑いの大会であるR-1で、漫才師やコント師が参戦して優勝をさらっていく。
ピン芸人が1人も最終決戦に残れなかったのは、ピン芸の閉塞感も感じるし、現在のピン芸人を取り巻く環境は、彼らにとって冬の時代であるような気がする。
哀しきチャンピオン
2018年8月30日放送の『アメトーーク 悲しきチャンピオン芸人』は、『M-1グランプリ』『キングオブコント』『R-1ぐらんぷり』というお笑いの3大賞レースで王者になったにもかかわらず、なぜかブレイクしていないチャンピオンたちにスポットを当て、その現状を自虐的に語ってもらうという面白い企画だった。
出演者は、銀シャリ、パンクブーブー、コロコロチキチキペッパーズ、ライス、三浦マイルドの5組。
番組の最後には、「悲しきチャンピオン-1グランプリ」として、街の人に出演者の写真を見せて名前が言えるかどうかを調査したが、案の定、三浦マイルドが最も名前を知られていない結果となり、「悲しきチャンピオン-1グランプリ」に輝いたのだった。
https://twitter.com/search?q=%E4%B8%89%E6%B5%A6%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%83%89&src=typd
『R-1ぐらんぷり』歴代王者たち
三浦マイルドは、2013年にR-1王者になったにもかかわらず、その後ブレイクすることはなかった。だから「悲しきチャンピオン」に認定されたわけだが、では他のR-1王者はどうだろう?
以下は歴代のR-1王者である。
第1回 だいたひかる
第2回 浅越ゴエ
第3回 ほっしゃん。
第4回 博多華丸
第5回 なだぎ武
第6回 なだぎ武
第7回 中山功太
第8回 あべこうじ
第9回 佐久間一行
第10回 COWCOW多田
第11回 三浦マイルド
第12回 やまもとまさみ
第13回 じゅんいちダビッドソン
第14回 ハリウッドザコシショウ
第15回 アキラ100%
第16回 濱田祐太郎
第17回 霜降り明星粗品
たしかに全員、実力は申し分ない王者だが、しかしこの中で、その後大ブレイクし、今でもよくテレビで見る所謂「売れている芸人」はほんのひと握りにすぎない。
もちろん、テレビに出ていなくても劇場や営業の仕事で忙しくしている王者もいるだろうが、たぶん半分以上の王者は、一般的にはその名前をほとんど知られていないのではないか。
R-1王者になったのにブレイクしていないのは、三浦マイルドだけではないのである。
今の時代、ピン芸人がブレイクするということは、あらためてなかなか難しいものだという印象だ。
中川家やフットボールアワー、ブラックマヨネーズ、サンドウィッチマン、アンタッチャブル、チュートリアル、NON STYLEなど錚々たる人気芸人をブレイクさせたM-1グランプリとは大きく事情が異なる。
ピン芸人が賞レースで王者になってもブレイクにつながらないのはなぜなのだろう?
ピン芸人はバラエティに不向き?
現在、テレビのお笑い番組は決して少なくないが、そのほとんどは平場でのトークやリアクションが求められるバラエティ番組であり、ネタ番組は非常に少ないのが現状だ。
テレビで活躍するためには、平場でのトークの上手さが必須となるが、陣内智則やバカリズムなどセンスの塊のような芸人でもなければ、なかなか難しい。
ピン芸人の場合、自分の失敗談や言動を語っても自虐にしかならないので面白くなりにくいし、ボケれば横にいる相方がツッコんでくれるコンビ芸人より分が悪い。
モノマネやキャラをつけることで一気に売れる方法もあるが、逆にそれしか求められなくなるため、短期間のあいだに同じ芸をこすり倒し、売れるのも早いかわりに、飽きられるのも早く、消えやすい。
なかなか難しいものだ。
今もテレビ界の頂点に立っているタモリ、明石家さんま、有吉弘行もピン芸人だし、他にも、今田耕司、東野幸治、陣内智則、バカリズム、劇団ひとり、小藪千豊、友近、ブルゾンちえみなど、決してピン芸人は売れないというわけではなさそうだ。
それでもやはり、ネタで認められたピン芸人がそのままブレイクし、テレビで活躍を続けるというのはそう簡単ではない時代に違いない。
R-1とM-1の視聴率の差
直近5年間のM-1グランプリの平均視聴率がおよそ21%なのに対し、R-1ぐらんぷりの平均視聴率はおよそ11%と半分程度だ。一般の関心の差は、やはり倍程度は違うということだろう。
それでも昨年まで、R-1の参加者は年々増加していた。2018年は3,795名と過去最高となった。2019年は、アマチュアの参加を制限したため激減したが、それでも2,542名がエントリーした。
優勝した粗品のネタは面白く、霜降りの漫才同様、テンポやスピード感が圧倒的に良かったが、実は何年も前からやっているネタであるし、昨年のR-1でもほとんど同じネタを披露している。
去年までは優勝できなかった粗品が今年優勝したのは、第一に彼自身の成長とネタの仕上がりがさらに良くなったこともあるが、同時に、R-1の全体的な停滞感も感じてしまうのだ。
現在、面白いピン芸人の層というのはそんなに薄いものなのか、画期的で面白いピン芸人が決勝に残らないなにか事情があるのか、そのあたりはわたしには、残念ながらわからない。
面白いピン芸人たちに、もっと光を!
しかし、王者の中でも知名度はもうひとつと思われる、三浦マイルド、中山功太、佐久間一行、やまもとまさみなどは、実際にネタはとても面白く、天才と呼び声高い芸人も存在する。
R-1の視聴率ももっと上がるような、唯一のピン芸大会にもっと世間の関心が集まるようなテコ入れも期待したい。
視聴者投票を入れたり入れなかったりと、毎年コロコロ変わる審査方法も固定させた方がわかりやすいと思うし、たとえば審査員に有吉弘行、東野幸治、千原ジュニア、バカリズム、アンガールズ田中あたりが加わったら、審査員のコメントももっと賑やかで楽しいものになりそうな気がする。
地方に住むわたしのような者は、劇場で芸人を見る機会もないので、賞レース以外でもテレビで才能あるピン芸人たちの本ネタを見る機会がもっとあったらなあ、と思う。
バラエティで活躍する芸人ももちろん良いけど、面白い本ネタが出来る芸人がちゃんと面白いと認められ、本ネタをしっかりと披露できる番組が増えることを願ってやまない。
(goro)